一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
ガラッと店のドアが開いた。
ふと入り口を振り返り見ると冬哉さんが立っていた。

「あ……」

間抜けな声が出てしまい、それを聞いたお兄ちゃんが入り口を見た。

「冬哉?!」

「お待たせ」

「「え?」」

「俺も同じものお願いします」

そういうとお兄ちゃんの隣ではなく、私の隣に座り込んだ。

「どうしたんだよ。なんでここに?」

「さっき由那に電話しただろ。それで聞いたんだ」

「ゆ、由那?!何呼び捨てにしてんだよ」

「悪いな。俺と付き合ってるんだ。よろしくな、義理兄さん」

「義理兄さん?!嘘だ、嘘だと言ってくれ。由那、由那。嘘だろ。由那はお兄ちゃんの由那だよな」

「うーん、お兄ちゃんの由那っていうのとはちょっと違う、かな」

「でもただの知り合いだろ?付き合ってないよな?」

「付き合ってるんだってば。諦めな、健介。妹とは付き合えないんだから。俺が由那を守るからお前は引退だ」

「嘘だ。俺はまだアメリカから帰ってきたばかりで、これから由那ともっと出かけたりするんだ」

「ごめんな。その時間は俺がもらうよ」

お兄ちゃんは衝撃的な事実に固まり、やがて静かになりお酒を飲み始めた。
やけ酒?
いつもよりピッチが早く心配になる。
しかも何も話すことなく黙々と飲んでいる。

「お兄ちゃん、これ美味しいよ。食べてみて」

私が声をかけるが、いつもならニコニコしてくれるはずが今日はうつろで、ため息混じりの返事しか返ってこない。

「お兄ちゃんは寂しいよ」

「どうして?お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんのこと大好きなのは変わらないからね」

励ますために言うと、ガバッともたげていた頭が持ち上がった。

「由那、お兄ちゃんのこと大好きなんだよな。お兄ちゃんも由那が生まれてからずーっと好きだよ。生まれてすぐの由那を抱っこしたことも手を繋いだことも、にぃにって呼んでくれたことも全部覚えてるよ。お兄ちゃんは由那が可愛くて仕方ないんだ」

「わ、分かったから。恥ずかしいから静かにね」

「健介。ごめんな。でも俺絶対に幸せにするから。ごめん」

そういうとカウンターに手をつき頭を下げてくれる。
私はことの成り行きを見守ることしかできない。

「うー……悔しい。悔しいけど、冬哉ほどいい男はいないと思う。他の男に由那を取られるよりも冬哉でよかったのかもしれない」

お兄ちゃんはそういうとカウンターに頭を乗せ、ぐったりした。

「寝ちゃった?」

「そうかもな。ごめんな、急に駆けつけてきて」

「ううん。兄に切り出してくれてありがとうございます」

「本心だから。絶対幸せにする」

冬哉さんと目が合うと胸の奥が締めつけられ、苦しくなる。
膝に置いていた手をぎゅっと握りしめられ、ますますドキドキが止まらない。
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