一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
それからというもの週に2回くらいは彼に会うようになった。

キキは本当に嗅ぎ分けているのか、彼がいる日は噴水前を通り過ぎて公園の外周へ向かうようになった。

「キキ!」

彼もキキを見つけると手を振り、こちらは近づいてきてくれる。

「原島さん、おはようございます」

「由那ちゃん、キキ、おはよう」

キキは原島さんの足にすり寄っていく。
原島さんはリードを受け取るとそのまま走り出した。私はまたベンチで待つことになる。

私たちはジョギング後に少しだけ話すようになった。
とはいえお互いの名前や世間話程度。
お互い出勤前のため雑談を少ししたら帰る時間になってしまう。
原島さんは朝からこんなに走るなんてなんの仕事してるのかしら、疲れちゃわないのかしらと思うがいつも颯爽と走り込む姿はカッコいい。キキじゃないけど私も見惚れてしまう、というのはナイショの話。

「おかえりなさい」

今日はレモンウォーターを手渡す。
キキにもお水を入れてあげる。

「由那ちゃんいつもありがとう。もらってばっかりで悪いから気にしないで」

「いいんです。私にはここまでキキと走ることはできないから助かるんです」

「キキは体力あるな。意外と家で飼われてる子はこんなに長距離走れないと思うんだけど」

「ふふ。原島さんと付き合ってだんだん体力ついてるんじゃないかな、と。最初はただ走りたかったのかもしれないけど今はまだ余裕の顔してますもん。最近は息の上がり方も違ってきてますしね」

「なるほどね。体力ついてきたのか。俺が追い越されそうだな」

キキは原島さんを見上げると足元に擦り寄る。

「キキは原島さんが好きなのね」

「俺もキキが好きだよ。可愛いな」

ヨシヨシと撫でる原島さんの手を気持ちよさそうに目を細めているキキは幸せそう。

「あーあ、仕事に行くか。ここでのんびりしてたいけど時間だな」

「私もです。このままのんびりしたいところですけど行かなきゃ」

私たちはここで分かれ家路へと急いだ。
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