塩彼氏の愛   番外編 兄はつらいよ
まぁ、そんなこんなで花は何事も無く
無事に高校生まですくすく育った。


本当は康之助の言う事が正しくて
正解と失敗を繰り返しながら人は成長するってのはわかってる。


でも、本当にいろんな方面から花と接触の機会を狙ってる輩達がいるのがわかってて
兄としては見過ごせない。


だって、俺が花を純真無垢で無自覚な娘にしてしまったんだから……

 
康之助が野球でアメリカの大リーグに行ってしまった時は花は三日三晩泣き続けて、悠之介は花の側にずっといたと思う。


まず、花が人目を憚らず泣くなんて初めての事だったから、俺も悠之介もどうして良いかわからなかった。


実は康之助が野球を始めたのは
花の影響だったんだ


花がまだ小学校の頃に、夏の甲子園をTVで見ていて「私も出たい!」となって、女は出られないと知って酷く落ち込んだ事があり、その時に


「よしっ!コウちゃんがハナを甲子園に連れて行ってやる!」と言い出して、中学で野球を始めたんだ。


中学ではマネージャーの募集が無くて
高校では絶対に野球部のマネージャーになってコウちゃんと甲子園に行くと騒いだけど
輩ばかりの野球部に花を入れられないと俺が止めた。


その時も花は駄々をこねて大変だった。


「何が心配なの?!コウちゃんが甲子園に連れて行ってくれるのに近くで応援したらダメなの?!私はそこら辺の女子よりは全然強いし体力もあるのにッ?!なんで!!!お兄ちゃんは私の邪魔ばかりするっ!!」


と、それはそれはお怒りモードだった。


確かに康之助がいれば大丈夫だったかもしれないのに。もしかしたら、2人を引き裂いてしまったのかもしれないと。


色々と複雑な感情が混ざり合い
花にかける言葉が見つからなかった。


悠之介もまた複雑だっただろう…
花の背中をずっとさすりながら肩を抱いて
ずっと側についてたな…


俺も悠之介も花も康之助がいなくなるのを
簡単には受け入れる事が出来ないというのに
アイツは笑顔でアメリカに発った。


空港の見送りでも
わんわん泣く花の涙を手で拭いながら


「花、ありがとうな!俺頑張ってくるよ!
花のおかげで野球が大好きになった!!
空、悠之介、あんまり花を締め付けすぎると
俺の所に呼び寄せるからなっ!
悠之介…後悔する前に行動しろよ…」


と、最後まで康之助は偉大だった。
俺らに置き土産を残し


花の前から最高にかっこいい姿で飛び発って
行った。


康之助がいなくなって数ヶ月は
花は抜け殻のようだった。


いつもみたいな威勢もなく笑顔もなく
ただ起きて食べて学校行っての繰り返し。


ある日、TVで大リーグの特集がやっていて
日本人選手の期待の新人として康之助が出ていた。その時「元気にしてるか?」と画面越しに笑ってウインクした康之助を見て、嘘のように回復したけど…笑


俺はアイツには到底敵わないし

悠之介は花の涙やその後の様子には
相当堪えてたと思う…


まぁ、でも、康之助…


2人は俺に任せてお前は自由にやれ。
2人とも俺の妹で弟だ。
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