冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~

 まさか、郡司さんの方から交際を申し込んでくるなんて。驚きと同時に、うれしさも隠しきれない。初対面だけれど、私も彼に惹かれていた。

 ……郡司さんを、もっと知りたい。

「はい。私でよければ」

 しっかり彼の目を見つめて返事をすると、郡司さんはホッとしたように息をついた。

「よかった。しかし本当にいいのか? もれなく面倒な母親もついてくるというのに」
「そんな風に言わないでください。私も郡司さんと一緒に考えたいです。お母様のためになにができるのか。どうしてあげるのが一番いいのか」
「……ありがとう、芽衣」

 初めて名前で呼ばれた瞬間はくすぐったくて、それ以上に幸せだった。

 私も「これからよろしくお願いします、至さん」と返すと、至さんも嬉しそうに微笑む。

 めでたく恋人同士になった私たちは、帰る時間を引き延ばすように一杯のコーヒーをゆっくり飲んだ。すると、ジャズピアノの演奏も、窓から望む夜景も、来た時よりずっと素晴らしいもののように感じられ、そうだ、これが恋だったなと久しぶりに思い出す。

 誰かを好きになると、五感が研ぎ澄まされて世界がまるで別物のように鮮やかなものになる。

 心理学でも明確には説明できない、恋の不思議だ。

 至さんにも同じ世界が見えていればいいと願いながらコーヒーに口をつけると、その味もやはり彼のおかげで、特別な美味しさだった。
  
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