『request』短編集
「なんでぇ?」
「さっき言ったじゃない。忙しいの!あー忙しい忙しい」
「さっきからケーキ作ってばかりじゃん」
「これも仕事なのよ!!!」
嘘つき。
お客さんが来なくて暇だから
ケーキを作るしかないくせに。
唇を尖らしたって見向きもしてくれない。
「てゆーかアンタ早く帰りなさいよ。またお兄さん迎えに来させるつもり?」
「勝手に迎えに来るんだもん。亜美迎えに来てなんて言ってないし~」
「アンタが遅くまでここにいるから心配で来るのよ!ほら!帰りなさい!!」
「えー」
今日もいつも通り女装姿のユーヤに背中を押されて、しぶしぶスクールバッグを手にその事務所から出る。
その時階段ですれ違った男の子は、
ここ最近この事務所に入社したばかりの人。
名前なんだっけ~
確かユーヤ、湊ちゃんって呼んでた。
その人は亜美に気がつくと
「もう帰られるんですか?」
「うん~ なんだか忙しいみたいだし」
「忙しい…?」
怪訝そうにするその人を置いて
言われた通りにその事務所を後にした。
亜美、文化祭でお姫様の衣装着るんだよ?
だからユーヤには
王子様の服を着て
亜美を迎えに来て欲しいのに。