『request』短編集
いつもなら噛み付く前に止められちゃうのだけど、
今彼はスヤスヤと気持ちよさそうに眠りについているのだから、気づいていない。
(蒼空さんが悪いんだから…)
不安にさせるから悪いんだ。
朝この痕に気づいたら「痕付けんなクソガキ」とか言って怒ってきそうだけど、そんなの知らない。
私は不安でたまらないの。
だから……その不安を少しでも軽くするために
「ごめんね、蒼空…」
私のものだっていう印を付けさせてよ。
首筋に触れる────瞬間。
「イダッ!」
ガンッ!と頭に直撃した硬い何か。
そのせいで噛み付くというよりもチュッ!と首筋にぶつかるようにキスをした。
「イタタタッ……なんなの…?」
当たったところがズキズキと痛み、
手でその部分を抑えながら、その" 何か "に視線をあてる。
それは長方形の携帯で、どうやらヘッドボードに置いていたらしい蒼空さんの携帯が偶然にも落下し私の頭上に直撃したらしい。
まるで痕付けんなと言われているような…
「はいはい、分かりましたよー」
元から付ける気なんてなかったし。
うん、なかったなかった。
その落ちてきた携帯をまたヘッドボードに置こうと思って拾いあげるのだけど、
「あっ」
不意に押してしまった電源ボタン。
暗かった画面がパッと明るく眩しくなり、
そして─────
「おい。」