『request』短編集
ぐるりと視界が反転したかと思えば、
「お、起きてたの…?」
見上げる先は、蒼空さんのキリッとした顔。
「デカい声とか首にぶつかってこられたら目覚めるだろ。」
「ごめん…。」
見下ろされている体制が妙に恥ずかしい。
「………なに笑ってんだ」
恥ずかしいのに、なぜか顔はほころんでしまう。
「いや……私って愛されてるんだなって」
「はぁ?」
急になんだと、分かりやすく頭に「?」マークを浮かべる彼。
ああ、もう。いいや痕なんて。
「旅行、楽しんできてね。」
彼の首に腕を回し、引き寄せて今度は唇にチュッとキスをする。
「急になんなんだお前は…」
不服そうな顔をしながらも、彼は再び私を求めた。
社員旅行前夜の甘い甘い出来事。
(待ち受け画面……一緒に桜を見に行ったときのやつだったなぁ…)
私の不安は、
この幸せな時間と
彼の携帯の待ち受け画面が
私の後ろ姿だったことで
十分に取り除かれましたとさっ。
私の知らないこと。
~完~
「蒼空さん起きて!遅刻するよ!!」
「んー……」
「集合時間間に合わないよ!」
「もー…行かねぇ……」
「あ!ちょっと!」
(行かないでほしいけど…!)
寝ぼけている蒼空さんに抱きしめられながらも、
その気持ちをグッと堪えて
強引に起こし向かわせるのだった。