『request』短編集
が。
(もたれ……かからない!!)
ピタリと止まり、「んっ…」と寝苦しいのか声を漏らしてまた窓側へもたれかかる蒼空さん。
(やっぱりそうですよね!!相手は蒼空さんなんだもん!そんなうまくいくわけ…ないよね)
そう思うも、ちょっぴり残念だったり。
だって……
(好きなんだもん…。触れたいよ…)
近い距離にいるのに、触れられない距離。
蒼空さんの指につけられているリングが私の気持ちを抑え込む。
(もしこれがなかったら……)
いつも気にかけてくれて
『葵』と、優しく名前を呼んでくれる。
(私にもチャンスがあったのかな…)
リングがつけられている手に
自身の手を近づけた─────とき。
「あ……悪い、寝てた」
「っ!?」
シュパッと目にも止まらぬ速さで手を引っこめる。
(びびび、びっくりしたぁあああ!バレた!?バレてない!?てか私は一体何をしようと…?!)
無意識だった。本当に無意識でした。
なんかこう……触れたくてたまらなくなって
手を握りたいなって、思ってしまったーー…。
「ぜ、全然!!気にせず寝てていいですよ!!」
「いや、いい。もー大丈夫」
「と言うわりには欠伸してるじゃないですか…」
「なんでだろうな。眠くないのに」
蒼空さんの欠伸を近くで見ていると
「ふぅあ…」
なぜか私も欠伸が出てしまう。
車内の小さな揺れといい、この空間が心地良いからかな…?
「ハハッ、うつった?」
「っ!?ちょっ、見ないでください…!恥ずかしい!!!」
クスクスと笑われているけれど、
その笑みは愛想笑いとかじゃなくて
「仲良しかよ」
心の底から笑ってくれているような気がして
その笑顔も
口調も
(好き、だなぁ…)
私の想いは募るばかり。