『request』短編集
旅館に着くと女部屋と男部屋で別れるため蒼空さんとは離ればなれに。
夜の宴会までは自由行動で、私は先輩方と温泉街を散策する。
温泉饅頭や足湯、お土産屋さんなどなど…落ち着いた雰囲気だからこそ、普段の慌ただしい日々から解放されてホッと安心感。
(蒼空さん…今何してるんだろう)
けれど考えてしまうことは蒼空さんのこと。
確かこの近くにウイスキー工場があるからって、課長に半ば強引に連れて行かれたんだっけ。
さっき先輩達が話していたのを盗み聞きした。
蒼空さんがいるなら私もそっちに行きたかったけど…私お酒飲めないんだよね…。
1口飲んだだけでもベロベロに酔っちゃうからさ。
「ここのいちご大福有名なんだって~!大きくて食べ応え抜群らしいよ」
「美味しそう~!買う買う!」
「葵ちゃんはどーする?」
「えっ!?あ、買います買います!」
いけない、いけない…!
また蒼空さんのことばかり考えてた!!!
ほとんど先輩の話を聞いていなかった私はとりあえず「買います!」と答えたけど、
ちゃんとその物を目にしてみれば、今までに見たことの無いくらいの大きないちご大福。
「お、美味しそう…!!!!」
値段もそれなりにするけど、買って損はしない!!絶対!!!
「すみません!これひとつ……」
店員さんに言いかけたその言葉。
甘い物=蒼空さん
たった今
それが頭に浮かび、
「………ふたつ下さい!!」
1という数字から2に変える。
きっと蒼空さんこういうのも大好きだと思うんだ。
この職場では私だけしか知らない蒼空さんの甘い物好き。