『request』短編集
この日の夜は案の定なかなか寝付けず、眠れたのはカーテンの隙間から差し込む光を感じてから。
「葵ちゃん、お腹空いてないの?」
「はい…。」
寝不足の私は美味しそうな朝食を目の前にしても喉を通らなくて、味噌汁をちょこっと啜っただけ。
「蒼空~ 葵ちゃん食欲ないんだって」
「っ!せ、先輩…!」
蒼空さんと喋るの厳しいです…!!
「お前が教育してるんだろ?気にかけてやれよ~」
「……………」
「(み、見られてる…!!)」
もちろん目は合わせられなくて、パッと分かりやすく顔を背けてしまう。
普段なら「そーですよ!気にかけてください!!」なんて冗談混じりでも結構本気でそんなことを言えるのだけど…
(今はやめて…!!)
その視線が痛くて、蒼空さんの返答を聞くことですら怖くて。
「あの…!本当に大丈夫なので!!あっ!部屋に忘れ物しちゃった!!取りに行ってきまーーす!!」
残った朝食はよく食べる先輩に渡し、私はその空間から逃げるように駆け出した。
(むり!むりだ!!むりむりむり!!!今は顔見れないってーーー!!!)
あの美しい顔を拝められないのはツライけど!
そうであっても無理なものは無理!!!
昨日の自分の行動に酷く後悔。
あんなことしなければ今も楽しくお喋り出来ていたのにさ…