『request』短編集
社員旅行②
社員旅行②
最終日はバスで少し移動し、近くの観光スポットへ。
その間のバスではまたくじ引きが開催され、席替えをした。
私は1番前の席になり蒼空さんは1番後ろの席。
(あーあ…離れちゃった)
運悪くか、今の状況から言えば運が良かったのか。
よく分からない気持ちの私を乗せてバスは目的の場所へと向かっていく。
前の席は比較的静かで、後ろの席は何かゲームをしているのか大盛り上がりのご様子。
(いいなぁ…楽しそう。)
隣の泉(イズミ)くんなんてずっとイヤフォンつけちゃってるしさ。
唯一の同期なのに未だに心を開いてくれない。
暇だな~、と意味もなくカバンの中に手を入れる。
「あっ、」
そういえば、昨日いちご大福買ったんだっけ。
旅館について速攻冷蔵庫に入れて、後で蒼空さんに一個あげようと思ってたんだけど、昨日あんなことをしてしまったおかげで渡せずにいる。
これ確か……賞味期限今日までだよね?
どうしようか、今食べちゃおうか。
いや、でも、
蒼空さんこーゆーの好きだろうし…
だけど今は話しかけにくいし…
しかも席離れちゃったし。
行き場のない、いちご大福。
未だにお腹は空いてなくて、この大きめいちご大福を今食べるにしては1個が限界。
だったらー…
「泉くんっ。ねぇ、泉くん!」
ポンポンと肩を叩くと、彼は少し顔を歪めた。
「なに…」
「邪魔してごめんね!これ良かったら食べない?いちご大福なんだけどさ」
「いらない。」
「えー。そー言わずにさぁ~」
「いらないって…」
「いらないいらない」と連呼する泉くんに負けじと私も「お願いお願い」を連呼する。
だって早く食べないと腐りそうだし…
しつこく言い合っていれば
いつの間にか泉くんの耳にイヤフォンはなく、
「あーもう分かったから…」
「ほんと!?やったぁあ!!これ割と高かったし絶対美味しいと思うよ!」
「……………」
泉くんの手に触れて
袋に包まれたいちご大福を持たせる。
こうやって、意識していない相手には
なんの躊躇いもなく触れられるのだから
やっぱり私って蒼空さんのこと好きなんだなぁ…
そう気付かされる。