『request』短編集
「てゆーかなんで2個も買ったの」
「あーこれ?蒼空さんにもーって思って」
「蒼空さんに?じゃあ渡しなよ。後ろにいるじゃん」
「私だって渡せるなら渡したいけどさ…いろいろ事情があって…」
「ふーん」
今これを渡せば蒼空さんは一体どんな表情を浮かべるんだろう。
嫌な顔をする?
気持ち悪そうにされる?
女の人に囲まれている時の蒼空さんはいつもウンザリした表情を浮かべてるんだもん。
好かれることに嫌気を感じているような。
だというのに昨日私は蒼空さんにあんなことをして、なおかつ気があるということもバレてしまって…
「蒼空さんのこと好きなの?」
「っ!えっ!?」
「あ、そうなんだ」
無表情で再び「ふーん」と呟く泉くんは既にいちご大福を食べきった模様。はやっ!!
「叶わぬ恋、だね。」
唖然とする私に対してポツリと呟く泉くん。
そして私の目をジッと見つめてから「美味しかった」といちご大福の感想を述べて、また音楽の世界へと行ってしまった。
泉くんって……人の心読めるの!?
意図も簡単に知られた私の気持ち。
『叶わぬ恋、だね。』
言われなくても分かっていることだけど、そう率直に言われてしまうと悲しくもなる。
そうですよ、泉くんの言う通り叶わぬ恋なんですよ…。
悲しい気持ちになりつつ、私もいちご大福を頬張った。
大福の優しい甘みと大粒ないちごの爽やかな酸味。全てがちょうど良くて、組み合わせが完璧なそれ。
あんなことをしなければ今頃蒼空さんと美味しいねって言い合いながら食べられたのかな。…なんて。また昨日の夜のことを後悔。
後悔したところで過去を変えられるわけじゃないのだけど…
「ふぁ~…あっ、眠れそう…」
車内の心地良い揺れといい、後ろの席とは違って静かなこの席。
こんな場所にいれば間違いなく寝不足の私は夢の中へ落ちてしまうわけで。