『request』短編集
「葵さん、」
「んー…なにぃ…」
身体を揺すぶられている気がして
薄らと閉じていた目を開ければ、
「着いたよ、葵さん」
無表情の泉くんがそこにいて、どうやら起こしてくれたらしい。
「わー…ほんとだぁ……ぐぅ…」
「いや寝ないで起きろって」
大袈裟に揺すぶられ、やっと重たかった瞼がぱっちりと開いた。
「あーよく寝た…って、もう私達だけ!?」
「うん。だからさっさと出てくんない?俺出られないんだけど」
窓際に座っていた泉くんはどうやら私が邪魔で出られなかったようで、だから強引にも起こしてくれたのだろう。
「ごめんごめん!!今出るから!!」
トートバッグを肩に引っ掛けて、慌てて外に出ようとした。
(あっ!蒼空さんがいる!!!!)
降りる前に蒼空さんの姿を発見し、昨日の出来事なんて寝て忘れてしまったかのように近くへ行こうとするのだけど、
「うわっ!!」
寝起きだからかバスのちょっとした階段で足が縺れ、前に倒れそうに────
「ちょっ…危ないって」
なる前に、私のお腹に腕を回ししっかりと抱き寄せるようにして助けてくれたのは、紛れもなく最後にバスを降りようとしていた泉くん。
(危なかった!!!!!)
ドキッよりもヒヤッとした私。
「ありがとう泉く…」
顔を上げた直後、
「…大丈夫か?」
「っっ!!!」
近くにいた蒼空さんもどこか心配そうな顔をして声をかけてくれた。
ま、眩しい…!!!
神々しくてもはや顔見えてないです!!!
「だだだだだいじょうぶです!!!」
「……、…そ。」
素っ気ない!!
でも心配してくれた!!
それだけでも葵は幸せです!!!
「…意識しすぎでしょ」
ボソッと耳元で言われたその言葉。
もちろんそれは泉くんの声。
「蒼空さんばかりに意識向けずにちゃんと歩きなよ」
その声は、なんだか呆れたような感じ。
「確かにその通りです…」
呆れられて当然だよ…。
こんな段差で足が縺れるなんてさ…
するりと離され、今度はちゃんと歩くことに意識を向けバスから降りた。
泉くんはそんな私を置いてスタスタと歩いて行ってしまったけど。