『request』短編集
『ハハッ、うつった?』
無邪気な笑み。
『……なんだ、葵か。』
安心しきった表情。
『教育担当の言うことが聞けないのか?』
意地悪な顔。
『お前ってちょっと変わってるよな』
クスクスと楽しそうに笑う。
『離れろ』
冷たく言って、私を遠ざける。
もしも、変えられるのなら
昨日の夜よりもずっと前へ。
あなたの手に指輪がついていない、そんな新しい運命に…
「時を戻してくださーーい」
自分の声にハッと目を覚ました。
(あ、れ?ここどこ……)
瞳に映るのは部屋の天井なんかじゃなくて絶景。
ああ、そうだ…
旅行中なんだっけ今…
「恥ずかしいっ…」
見知らぬ土地で大声で「時を戻してください」なんて叫んじゃったよぉ…
その恥ずかしさに頭を抱える─────が。
「そうだな。戻したいな、時間」
「……………」
「てゆーかやっと起きたか」
「…………へっ?」
幻聴?幻聴ですか?
隣から蒼空さんの声が聞こえるんですけど。
しかも割りとはっきりと。