『request』短編集
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「………せさん」
「(ん…?)」
「綾瀬さん…」
「(あれ……浅川くんの声だ…)」
「綾瀬さん」
「(ほんと良い声…ずっと聞いてたい…)」
「………………陽菜。」
「(陽菜だって……夢の中でも嬉しいなあ)」
「あ。起きた」
パチリ。目を開けると、目の前には浅川くんの美の美の美の顔が。
「え、近っ。さてはまだ夢の中…??」
「現実だよ。」
「わっ」
ツン、と。額にシャーペンのノックする方を軽く当ててきた。
優しいその感覚は明確で今この世界は間違いなく現実なんだということを実感する。
「あれ、授業もう終わっちゃった?」
「うん。ついさっき。」
「うっそぉ~…もったいないことしちゃったぁ…」
まだ全然浅川くんの横顔見たりてないのに一体何をしているんだ私は……
「ぐっすりだったね、綾瀬さん。良い夢でも見れた?」
「良い夢も何も最高でしたよ…!なんかね!浅川くんが何度も私の名前を呼んでくれてたんだけど突然「陽菜」って!!あれには夢の中であっても身も心もズキュンときちゃって…………ん?どうしたの浅川くん?」
帰る準備をしていた浅川くんの手が突然ピタリと止まる。
「その反応……
まさかあれは現実だったとか!?」
なーんて。冗談で言ったつもりだった。
それで「呼んでないよ」「えー!!残念…でもこれを機に下の名前で呼び合うとかどうかな!?!?」って提案するつもりで。