『request』短編集
(終わんない……)
ある日の金曜日。誰もいない仕事場で唯一明かりのついたパソコンを前にして「んー…」っと伸びをする。
(連絡漏れとかマジありえねぇ…)
企画書の作成を今日までと知らされたのは帰宅時間の1時間前。どこか抜けているこの部署の課長に申し訳なさそうに言われてはやるしかなく、案の定帰宅時間を大幅に超えたこの時間になってしまった。
「……、…蒼空さんがいればなぁ」
そう呟いたところで助け舟はゼロ。
こういう時に限って蒼空さん出張だし。
あの人周りをよく見てるから、こういう時は大抵手を差し伸べてくれる。
……頼りすぎも良くないとは思うけど。
「あーー…無理。ちょっと休憩」
何かとイライラが溜まって誰もいないこの社内の喫煙所で一服。
タバコを吸うのはこうやって鬱憤が溜まった時限定で、これが俺のストレス発散方。
普段は吸わない。だから社内で俺が喫煙者だということを知っている人もいない。
別に隠しているつもりはないけど、言うつもりもない。言ったところでメリットなんてないし。
「…………………」
ただ1人で佇む。
……………はずだった。
「泉くんってタバコ吸うんだね?」
「っ!? ゲホッ……」
「うわ!ごめん!驚かせるつもりはなかったんだよ!?」
ひょっこりと俺の目の前に現れたのは、
唯一の同期である葵さん。
いや、なんでいるんだろう。