『request』短編集
「迷惑とかそんなんじゃないから。これは手伝ってくれたお礼。だから早くベッド使って。」
「は、はひ…」
「ん。」
ギシッとまた音が鳴った。
それは泉くんがベッドから手を離したから。
「お風呂入るなら先入って」
「きょ、今日はいいかな…」
「そ。じゃあ俺入るよ」
「はひ…」
バタン、とドアが閉まった音でやっと胸を撫で下ろす。
だが、数秒でまた暴れ始めた心臓。
(いやいや!まって!?なにあれ…!!少女漫画!?少女漫画読んでるの泉くん…!?あんな床ドンチックなこと現実で起こるの…?!)
ドキドキと煩いこの音はあのシチュエーションに対してなのか、それとも……
(……そういえば、初めて泉くんからタバコの匂いがしたなあ)
ふわりと香ったあの匂いがずっと鼻先にこびり付いて離れなかった。