『request』短編集
「はあぁぁ……」
身体の力がなくなったかのようにその場にしゃがみ込む。
蒼空さんに大切な人がいること、そんなの今に分かったことじゃないじゃん。
初めて蒼空さんを見たその日から私は蒼空さんの薬指につけられている指輪に気がついていたけど、その日以来は視界に入れようとしなかったんだ。
ずっと蒼空さんの顔ばかりを見ていたから。
あぁカッコイイな。って。
ずっとずっとそう思ってた。
蒼空さんは甘い物好き。
その事実は私と蒼空さんだけの秘密じゃない。
あの人は私が気づくよりもずっと前から
その事実を知ってる。
柔らかくふわりと微笑む表情だって、あの人は何度も見てきているだろう。
蒼空さんも、あの表情を見せるのは、あの人だけ。
蒼空さんがあの人の事をとても愛おしく思っていることが嫌な程に伝わる。
(あーもう……今日はヤケ酒だっっ!!!)
あの感じだと、蒼空さんの心の隙間に入る余地すらもないのだから。