『request』短編集
「…あのさ、桜井」
「ん?」
「あの日のこと……
今が幸せだからこそ、何度も思い返すよ」
こんな話を夢の国だと言われているこの場所で
話すべきじゃないことくらい分かっているけど
「俺が桜井の人生にも彼女の人生にも華の人生にも傷をつけた。それなのにも関わらず、俺は今こうやって華と共にいられてる」
「………………」
「悪い事をしたヤツが幸せになんてなれるはずがないのに……」
楽しそうな声や笑顔が広がるこの空間に
悪い事をした俺は似合わない。
だけど今、その世界の中に俺はいる。
好きな人に連れられて、その人の隣を歩き、
楽しいねと言い合って、笑顔が見れて。
幸せだと、心の底から感じられて。
あの日から全てが良い方に進み過ぎていて
俺はたまに怖くなる。
「いつかバチが当たるだろうなって」
俺はそれを口にしながら少しばかり笑顔を浮かべた。
それはバチが当たって当然だと分かっているから。
自分がしたことに対する罰。
人に与えた苦しみに対しての罰。
怖がらせてしまったことに対する罰。
嫌な思いをさせてしまった事に対する罰。
……言い出したらキリがないけど、
それは、この先一生忘れてはならないものだ。