『request』短編集
隣でその甘い物を食べ始めた桜井を見て俺はポツリと呟く。
「……ほんと変わらないよね」
「なにが?」
「甘い物が好きなところとか」
「お前に言ったことあったっけ」
「ないよ。でも、知ってる。バレンタインを避けたいから甘い物が嫌いだってあえて嘘をついていたこととか、華の彼氏だと思っていたあの頃は桜井のことを片っ端から調べていたし」
「キモイな」
「そう言われても仕方がないよね」
本当におかしな空間だと思う。俺と桜井はこうやって話をするほどの仲じゃなかったのに。
「あ、終わったみたい」
パレードを見ていたらしい人々があちこちと散らばっていくのを確認して、そう気づく。
(華は……)
こうやってスグにその人のことを探してしまうのは昔と変わらずだけど、
「さっきの話」
「ん?」
そう言って。ヒラヒラと手を振る桜井もきっと彼女の姿を見つけたからで。