『request』短編集
「自分のした事は自分に返ってくる。それが良いことでも悪いことでも、どんな内容であろうと全部な。」
「だから、」と続ける桜井はトントンと指先で自身の頬を軽く叩いて、
「お前の罰は、あの時華に殴られたことでもーチャラになってるな」
「あっ………」
「だいぶ痛かったろ、あれ。
殴られたところ真っ赤になってたし」
「………………」
自分の頬に手を当ててみる。
泣いて、震える声で怒って
拒絶したような瞳を向けて。
俺なんかよりもきっと華の方が痛かったはず。
「……あれだけじゃ全然足りないよ」
「あっそ。まあ、どう思うかは自分が決めること。あれを罰だと思えるなら、お前の起こした罰はそれで終わり。」
少し離れた場所から「あ!やっぱり食べてる!!」と、こっちに向かって走ってくる姿が見えた。
その声とその姿を見た桜井はふわりと笑みを浮かべて。
「あとは良いことだけをすればいい」
「………………」
「その分、幸せも増えるだろ」
" 幸せ "
そのワードを頭に思い浮かばせて華の姿を見る。
目が合うと、華はニコリと笑って俺に手を振ってくれた。
泣いて、震える声で怒って
拒絶したような瞳なんかじゃなくて。
「ただいま、優!」
「おかえり。どうだった?」
「すごく良かったよ~!もうみんな可愛くって…」
「そっか」
「だからね、優」
クイッと俺の腕を引っ張って身体を傾けられると
華は俺の耳に口を寄せて
「また今度一緒に観ようね」
「…………うん。また来よう」
「ふふっ、楽しみだなあ~」
………桜井の言っていた通り、
過去のことを拭えるわけじゃないけど、
あの時の罰は既に返ってきていたんだと
そう錯覚してしまうくらいに
「プレミアムストロベリーキャラメル味のワゴン、そこに来てるらしいよ」
「えっ!うそ!!」
「食べる?」
「食べる!!」
俺は今、とても幸せです。
過ちと、幸せと。
~完~