『request』短編集



(やっと寝た…)






隣で眠る蒼空さんからスースーと寝息が聞こえる。その瞬間を狙ってこっそりと蒼空さんの腕の中から抜け出した。




少し前、突然腕を引っ張られたかと思えば「寒い…」と呟く蒼空さんにしっかりホールド。



やっぱり酷く熱を出しているだけあって、蒼空さんの身体はとても熱かった。



でも熱が出ている本人は寒いみたい…






(ツラそうだなぁ…)






見ていて可哀想になるほどツラそうなその姿。ちょっぴり額に汗をかいていて、タオルで優しく拭ってあげる。





蒼空さんが風邪を引いたのは今までずっと仕事が忙しそうだったし疲れもあるだろうけど…



昨日、雨予報だった日に傘を持っていくようしっかりと手に折り畳み傘を持たせてあげたにも関わらず、その日蒼空さんはずぶ濡れで帰ってきた。






「傘はどーしたの!?」


「後輩に貸した」


「か、貸したって…」





それで自分が濡れてどーするのよ…




自分のことよりも人のことを優先しがちな彼は傘を持ってきていなかった後輩に貸してあげたらしい。



良い人すぎるけどさ……今しんどい思いをしているのはあなた自身なのに。





今日は土曜日。ちょうど蒼空さんも仕事が休みで、私も休み。



このタイミングで風邪を引いたのはまだ運が良かったと思うけど…






「……自分の身体も大切にしなよ」






眠っているから聞こえていないだろう彼にそう呟いて頭を撫でる。




いつまで経っても、蒼空さんの心優しい部分は変わっていない。


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