『request』短編集
「月姫…どーした?」
サラリと私の髪を撫でる蒼空さん。その顔は熱のせいか頬が火照っている。
いつもなら「こらっ」とか「なんだよ」とか噛み付く前に止められるんだけど、今の蒼空さんは力が出ないからか口調もなんだか優しい感じ。
「……噛みつきたくなった」
「犬かよ…」
フッと笑う蒼空さんは微かに息が荒れているものの、私をゆるりと抱きしめる。
「なに…不安にさせた?」
「ちょっと…」
「……そっか、ごめんな」
理由を聞こうとはせずに
私の頭を軽く、そして心地良いテンポで叩く。
ああ、もう、ずるい。
優しい口調なのも
優しく撫でてくれるその手も
「葵は、俺が教育担当してる子。鈍臭いけど、なんでも全力で取り組む所が月姫に似てる。
……だから、つい助けたくなるんだよ…」
何も言っていないのに気づいていることとか
病人のくせに、ずるいよ。