『request』短編集
「葵ちゃんおはよ~」
「おはようございます!!」
「今日は来るの早いね」
「なんだか目が冴えちゃって!!」
誰もいなかった場所に次々と先輩達が出社していく。
目が合えば「おはようございます!」と全力で挨拶をするのが私の日課。……なんだけど。
「お。泉おはよ~」
「!!!」
少し離れた場所から聞こえた先輩の声。
声、というか、名前に反応しちゃった私は無意識にもその場所に視線をあててしまう。
泉。
その名前に吸い寄せられているような、引き寄せられているような。
釘付けになって見てしまう私は超絶おかしい…!!
気づいて目を逸らすけど、少しすればまたそこに視線がある。
(目おかしくなったのかな……あの辺だけチカチカと眩しいし……
…あ。うそ、やばっ!目…!!)
バチッと泉くんと目が合えば急に胸が苦しくなる。
てか挨拶!!目が合ったら挨拶!!!
大きな声で挨拶ーー!!!
「お、お…」
「どうしたの?葵ちゃん」
「へっ!?い、いえ何も…!!」
なかなか喉から先に言葉が出なくて詰まっていると先輩に不思議そうな顔で覗きこまれた。
ドキドキと煩い心臓。
たかが挨拶なのに……なんでこんなにも緊張してるんだろう。
相手は同期の泉くんなのに。