『request』短編集


なのに。






「………うん、そう…だね」






葵さんは想像していたような反応を見せなくて



どちらかといえば、なんだか悲しげで。





(なんだよその顔……気を遣ってやったのに)





その表情の変化に違和感を覚えながらも、ここから先邪魔者になってしまうだろう俺はその場で別れを告げる。





「じゃ、頑張って」


「あっ…!まって泉くん!」


「なに?」


「えっと……」


「早くしないと蒼空さん行っちゃうよ」


「っ……い、泉くんは………私の事、どう思ってる?」






なんで唐突にそんなことを聞いてきたのか分からないけど、まあ考えるまでもない。






「どうって─────ただの同期だけど?」






それ以上でもそれ以下でもない。





俺達はただの同期という関係に過ぎない。
そうだろ?






信号が赤から青へと切り替わる。




ほら、早く行ったら?




そう言っても葵さんは動かずその場に立ち止まり、歩き始めた蒼空さんとの距離が徐々に広がっていく。



駅が近いこの場所。周りがザワザワと騒がしいのはちょうど今帰宅ラッシュの時間帯だから。





足早に動く人達。




その間に立ち止まる俺と葵さん。





彼女はとても寂しげに笑って
「そっか」と呟いた。









協力してあげたい。

~完~

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