『request』短編集
「間違ってたって!!!」
「良かったですね~!」
先輩につられて私も笑みを浮かべる。
………だけど。
「で、本当は誰とだったの?」
「それがね~…『泉』と!」
先輩からその名前を聞いた途端
ギクリ、と
身体が固まった。
「泉くん…と、ですか…?」
「うん!!
良かったぁ~ もう気兼ねなく行けるよ~」
「………………」
……どうしよう。
「ミスでホテルの部屋1つしか取ってなかったとかならないかな~?」
「アンタ地味に泉のこと狙ってるもんね」
「そうなんだよね~!
チャンスだよチャンス~!」
さっきまでの表情とは違ってニコニコと楽しそうに喋る先輩達。
どうしよう、全然笑えない……
先輩が泉くんのことを狙ってることだとか
その先輩が泉くんと2人っきりで出張だとか
ホテルが同じだとか。
もう………全部が嫌だ。
(そうは思っても…)
思ったところで決まったことは変わらない。
私が代わりに行けるわけでもない。
どう抵抗したって、この事実は変わらない。
ちらりと泉くんの姿を見る。
さっき居た場所に泉くんの姿はなく、
彼は今課長の近くにいた。
きっと出張のことを告げられているんだろう。
来週、
泉くんは先輩と2人っきりになってしまう。
丸一日を、共に。