『request』短編集
ルンルン気分で会社を後にすると、傘に落ちてくる雨の量はさっき見た通りに土砂降りで。
「ところで……なんで私に?
他にも同じ部署の人とかいたし……」
トンっと肩が当たっただけなのに
その部分は徐々に熱を帯びて
「葵さんが1番話しやすいから。
こうやって近距離になっても嫌じゃないし」
泉くんの言葉にも、私の身体は熱を帯びてく。
(それって……)
泉くんも、もしかしたら。って。
この時私は"あの事"をすっかり忘れていて
ただただ泉くんの言葉に溺れてしまって。
「わ、わたし…」
「ん?」
その「ん?」って。
私に見せてくれる優しい顔も、
「どうしたの? 葵さん」
聞き取りやすいその声で
私の名前を呼んでくれる所も
「……泉くんのことが好きみたいっ…」