『request』短編集
こぼれ落ちたその言葉は至近距離にいる泉くんの耳にしっかり届いたみたいで。
「えっ…?」
ピタリ、と。泉くんの足が止まった。
雨足は更に強くなって、ザーザーと傘に降り注ぐ雨。
聞こえてくる音は、雨音と自身の心臓の音。
(いっ…ちゃった……)
今日自覚したばかりにも関わらず
今日告白してしまうとは。
自分の行動には自分でも驚かされてしまう。
ドキドキと心臓が煩い。
この音、泉くんに聞かれてないかな…?
恐る恐ると泉くんに視線を当てる。
俯き気味だった頭をゆっくりと。
泉くんの姿を下からゆっくりと──…
「………い、ずみ…くん…?」
泉くんのその顔は
今までに見た事の無い顔で
なんだかとても苦しそうに顔を歪めていて
「……違うよ、葵さん」
とても寂しげに名前を呼んで
「葵さんのその気持ちは……ただ、蒼空さんに対する想いを誰かで埋めたいだけだよ」
私の鼓膜を刺激する。