『request』短編集
そして泉くんの濡れた肩を見て、また胸が苦しくなった。
(入れてって言う割には泉くんすごく濡れてるじゃん…)
こんなの……傘の意味がないよ、泉くん。
「……これ、ありがとう」
「え? 泉くんっ…!?」
泉くんは私に傘を返し、雨の中走り去ってしまった。
「雨…凄く降ってるのに……」
だけど、
追いかける気力も
言い返せる言葉も何も無くて…
「そう…なのかな……っ…」
この気持ちは……そういうことなの…?
泉くんの言葉はなんだか説得力があって……そう言われてしまうと、自分の気持ちが分からなくなってしまう。
(泉くんは私を同期としか見てないのに…)
もしかして、なんて。
何を舞い上がっていたんだろう……恥ずかしい。
近づけたと思っても近づけなくて。
もっと近づきたいのに
この距離がどうしても縮められない。
近づけない。
~完~