『request』短編集
「葵ちゃんはどうする?」
「え?」
「あれ、聞いてなかった?
これから飲みに行こうかって話になってんの」
「飲みに……ですか」
どうしよう、気分じゃないな…
でもここで断ると変な空気になっちゃうよね…?
「えっとー…」
「私はパス!」
迷っていると、1人の先輩が携帯を片手に
『行かない』を示した。
その先輩は今度泉くんと2人で出張に行く予定の人。
泉くんのことを……狙っている人。
「何か用事?」
「ほら、熱出てるって言ってたじゃん?泉。
だから看病しに行こうかな~って!
明後日から出張だしそれまでに治してくれないと困るしさ~」
「とかなんとか言っちゃってさ~?本当は出張までに距離縮めようとしてるんでしょ」
「ふふ、当たり~♪」
先輩方のこの会話だけはしっかり耳に入ってきて、私の胸には黒いモヤが広がってく。
「葵ちゃん泉と仲良いよね?」
「えっ。」
「家知らない?」
「あ……えっと…」
もちろん覚えてる。
一度行ったことがあるから。
先輩はその場所を知りたいのに……
「…………わ、かりません…」
嘘をついてしまった。
教えたくなかった。
どうしても、言いたくなかった。
泉くんと先輩が密室に2人っきりなんて……
考えただけでも胸がズキズキと痛くなるから。