『request』短編集
沈んだままの心で会社を出ると、その近くには一人の女の人が。
誰かを待っているのか、どこかソワソワと周りを見渡している。
(あれ………あの人って確か、)
見間違えるわけない。
覚えてる。
だって『好きだった人』の奥さんだもん。
嫉妬に似た感情でその人のことを見ていたから
はっきりと頭の中に残ってる。
(誰か……探してるのかな?)
といっても、その"誰か"なんて分かりきっていることで。
(あ、蒼空さんだ)
その人の元に近づいていくのはもちろん蒼空さん。
目で追ってみるけど、2人の仲良さそうな表情を目の当たりにしてもあの頃のようにモヤモヤと嫌な気持ちにはならなくて……
(やっぱり、私───…)
泉くんのことになると、蒼空さんに恋していた時と同じ感情になる。
顔が見れると嬉しくて、
笑顔が見れるともっと嬉しい。
そばにいると触れたくなって
一緒にいると離れがたくなって。
時間が許す限り、ずっと喋っていたい。
─────そう思えるの。