『request』短編集
「っ…………」
泉くんのことを思い浮かべると
なんだか会いたくて仕方がなくなった。
(けど泉くんの家には先輩が……)
邪魔しちゃダメ。分かってる。
先輩は泉くんのことが好き。
だから、邪魔しちゃ……
ギュッと手に力が入る。
そして思い浮かぶのは─────泉くんの顔。
私のことをよく見てくれる、そんな彼の顔で。
(…………ヤダ。やだよ…!)
動き出した足は駆け出すように前へと進み、駅の方へと向かう。
乗り込んだ電車はいつもと違う逆方向で。
「っ、はぁ、早く…!」
目的の駅に到着すると、
あの日のことを思い返しながらその場所へと向かった。
息が上がって疲れていても、もう止まりたくない。
(違う。絶対違う!
この気持ちは勘違いなんかじゃないっ…)
この気持ちの正体は一体なんなのか。
そんなの、誰に聞いても分からないと思う。
だって
(私は、私は…!泉くんのことが────)
答えは自分にしか分からないんだから。
そばにいさせて
~完~