『request』短編集



「殺す気かよ…」




怪我は無かったものの

葵さんは未だ俺の腕の中。



仰向け状態の俺の上には葵さんがいる。



顔は俺の胸元で伏せて。





「聞いてんの?」


「………………」


「なぁー…」





と。



急に顔を上げた葵さんに再度驚かされると、

キッと鋭い目つきを俺に当てた。





「まだ帰らない……帰りたくない…!」


「っ、」


「こういう時に伝えるべきじゃないことくらい分かってる…!
分かってるけど知ってほしいの…!」


「………………」


「私…!やっぱり泉くんのことが────」





葵さんの口を手で塞ぐ。



その後に続く言葉を封じるかのように。





「だから……勘違いだって」





そう言葉にする度に

なんでこうも苛立ってしまうのか。




叶わぬ恋だとしても

叶えばいいと願っていた。



協力してあげたかった。





「俺たちはただの同期なんだから」





なのに


なんで





「葵さんが本当に好きなのは蒼空さんだよ」





自分が言ったことを否定したくなるのか。



そうであってほしいのに

そうであってほしくない自分がいる。



俺のせいでそうやって寂しげに顔を歪ませるところだって─────本当は見たくないのに。


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