『request』短編集
ブレスレットと共に渡された物だ。
あの時、悲しくてツラくて寂しくて
この紙を読む気になれず、引き出しの奥にしまった物だ。
たった1行のその文でも、
何度も書き直したんだと分かってしまう。
それは、紙に文字を消した跡があるから。
サプライズが苦手で自分の想いを言葉にするのも苦手な彼。そんな彼が手紙を書いてくれた。
彼からの手紙は、これが初めてだった。
『五年後に帰ってくるから、その時は結婚しよう』
空港で言ってくれたその言葉も、彼は頬を赤らめて少し緊張混じりで伝えてくれた。
微かに震える手でブレスレットを付けてくれた。
泣きじゃくる私に対して、今まで泣いてるところを見たことのない彼も目が微かに潤んでいて。
『約束。』
お互いの気持ちを確かめるように、
その場で抱きしめ合った。