『request』短編集
どんどんやる気を無くす僕に、父さんは笑顔でこう言った。
「湊。パンはもちろん形も重要だけど、もっとも重要なのは味なんだよ。見た目が良くても味が良くなければ売れないんだ。」
父さんは僕の作ったパンを口にする。
そして、
「思っていた通り、美味いな!!湊が1から一生懸命作ったからこそ出せる味だ!!」
美味い美味い!!っと、
ほんと煩いくらい
何度も何度もそう言いながら食べ進める父さんに
心の奥があたたかくなった気がした。
美味しいと言って食べてくれること。
どうやら僕は、その言葉に弱いらしい。
しかも今回のその言葉は、自分の作ったパンに対して。
「っ………」
心が、素直に、嬉しいと言ってる。
作ることも悪くないな、と。
これが、自分の中で何かが生まれたきっかけだった。