宛先不明ですが、手紙をしたためました。
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帰宅後、夜ご飯を食べ終わり、お母さんが洗ってくれた食器を片付けていた。
「お母さん。今日、お父さんは? 帰り、遅いね」
私のお父さんは、自動車ディーラーの営業マンをしている。
お客様都合のお仕事だと分かってはいるが、それにしても、今日は特に帰りが遅い。
私が尋ねると、お母さんはいつも通りの穏やかな表情で答えた。
「今日は常連さんが、ずっと探し求めてた車種が入ったから、どうしても今日中に見てもらいたいんだって。お昼に興奮しながら、電話が掛かってきた」
「なんか、お父さんの顔が想像出来る」
「華世の想像のまんまだと思うよ。お店、閉店した後に、お客さんと約束したらしいから、今お相手してるのかもね」
「へぇ。凄いね、お父さんって」
「ん?」
「人の為に、一生懸命になれるんだから」
「うん。今の仕事は、あの人の天職かもしれやんね」
そう言って、お母さんは嬉しそうに微笑む。
──お母さんもだよ。
相手のことを、自分のことの様に、そうやって喜べるところ。
内心で、そっと呟いた。
だから、2人は私にとって、憧れる夫婦。
再会して、今でも仲の良い関係で居られるなんて、ドラマの世界のようだ。
少し照れ臭い気はしたが、両親の馴れ初めを掘り下げたくなった。