宛先不明ですが、手紙をしたためました。



「知りたいの? そんなこと」

「うん。知りたい」



お父さんはグッと言葉を詰まらせた後、頭を掻いた。



「ええ……。秘訣は、無いかもしれない」

「え。そんな訳ないでしょ」

「本当に無い。俺らは空白の時間が長過ぎたから、今、それを埋めてるだけ。それだけ」

「空白?」

「学生時代、お互い、想い合ってたくせに、自分の気持ちにわざと嘘吐いて、すれ違って、離れてしまったけど」



その瞳には後悔を滲ませていても、それでも明るく、前向きだ。



「気持ちって、年月重ねれば、変わるって思うでしょ」

「……分からない」

「そっか。……変わらないよ、たった1人しか居ない大切な人だって思うから」



あまりにも幸福そうに目尻を下げるから、こちらまで、むず痒くなる。

そんな私に、ニッと笑う。

お父さんのいつもの決まった笑い方。



「お母さんとの空白は、一生かけても埋まらない。とても幸福なことだと思う」



2人って、本当に凄い。

2人共が、この話題を出した途端、同じように優しい表情になる。

強い愛……じゃない。

これは、この2人の中にしか存在し得ない、特別が過ぎる愛なんだ、きっと。

──いいな。

純粋に羨ましい。

憧れではあるけど、私にもそんな人が現れるのか、と考えると、自信が無くなる。

心から悶える程の恋をしたこともない私には、難しい気がしてきた。



< 33 / 120 >

この作品をシェア

pagetop