宛先不明ですが、手紙をしたためました。
不穏な気配【蜂矢side】
【蜂矢side】
昔から変わらない事実がある。
それは、ただ1人の好きな人が居ること。
小学生の頃は、弄ると反応が面白くて、困り顔が可愛くて、ついちょっかい出していた。
中学生になっても、そんなことを続けていた。
しかしある日、いつも弄られて困っているだけの「あの子」が少しだけ変わった。
『健太くんなんて、嫌いだもん』
言われた瞬間、頭をガツンと殴られた様な衝撃だった。
そして、背中を向けて、走り去る。
その姿が小さくなっていくのを、泣きそうな目で追いかけた記憶が、今でもこの頭に鮮明に残っている。
それでも、それは自業自得。
そんな痛い目を喰らってまでも、未だに好きでいられるのは、もはや病的だ。
でも、今は「あの子」へ向ける俺の感情が、全く違う。
困り顔が可愛いと思うのは変わらないが、弄ると反応が面白いとは、もう思わない。
「あの子」の姿、存在を感じただけで切なくなる。
「あの子」が、俺に対して苦手意識を持っているのだとしたら、それまでだ。
ちゃんと「あの子」が「あの子」らしく笑える相手と居るべきなのだから。
そんなことを、まだ登校してきていない彼女を想い、身体が熱くなる。
――早く、一目だけでも顔、見てぇな。
「おはよう!」
その時、お目当ての本人が教室に駆け込んできた。
ホームルームが始まる15分前だ。