宛先不明ですが、手紙をしたためました。
あれこれ悶々と考えていると、唐突に私の背後から、手が伸び、私は跳ね上がる。
すると、私が書きかけた担当者欄を、そっとなぞって言った。
「名前、書こうとしてくれたんだ。なんか、栗山さんの達筆で書いてもらえるの嬉しいな」
私には、全く嬉しいとは、思えない。
むしろ止めていただきたい。
「これ書いたら、終わりだから、もう帰っちゃっても大丈夫だよ」
早くどこかへ行ってほしい一心で、私なりに冷たく言い放つ。
しかし、彼には上手く意味合いが伝わらないようで、余計に距離を縮めることを止めない。
それどころか、私の気を逆撫でる。
「栗山さんってさ。本当に物怖じしないね。ちょっと興味、湧いてきたかも」
そんなことを間抜けな口調で抜かす海藤くんに対して、改めて、私はこの人を受け付けることが出来ないのだと感じた。
私の嫌悪感がどうしようもないところまできたところで、更に追い打ちをかけるように、私の前に腕を回そうとしてくる。
――これは、抱き締めようとしてる?!