宛先不明ですが、手紙をしたためました。
「噂じゃないよ。カスミも、ユナちゃんもアンナちゃんだって、栗山さんに渡してもらったって、言ってたもん!」
――そう言われましても、今、お名前を挙げられた子たちを、私は存じておりません。
今まで数え切れないくらい、代理人としてラブレターを届けてきたから、いちいち覚えていない。
今にも泣き出しそうな彼女に心苦しくなり、内心で呟く。
「うーん……参ったな」
「だったら! 渡すだけで良いの! 私、海藤くんのこと本気だから」
「本気なら、尚更……」
「本気だからこそ! 海藤くんの前では、何も言えなくなっちゃうものなんだよ。栗山さんには、分からないだろうけど」
「え」
私には分からないって、何。
女の子の言葉に、思わず固まる。
「栗山さんは良いよね。海藤くんの前でも、平気なんだもんね」
「べ、別に平気な訳じゃ──」
「海藤くんと話してるところ、結構見かけるって、みんな言ってるよ」
みんなって、誰。
女の子の勢いは止まらず、更に距離を詰めてくる。
私は反論したい筈なのに、圧されるがまま、何も言えない。
すると、急に私の手を、彼女の両手が包み込んだ。
「頼めるのは、栗山さんしか居ないの! お願いね!」
そう言って、女の子は飛び出すように、走り去っていった。
空き教室に取り残された私は、その場で尻込みをつく。
「あの勢いなら、告白するくらい訳無いって」
強引に手の中に収められた、ピンクのラブレターをぼんやりと眺めた。