宛先不明ですが、手紙をしたためました。
6通目_.*・〆
渾身の空振り
朝の教室は、非常に賑わっていて、グループで世間話をする生徒たちは毎日のルーティン、朝の1限目の授業の支度をしつつ、楓と談笑していた。
健太君はと言うと、自分の席で足を組みながら、野球ボールを握って手指を動かしているようだった。
楓と会話を続けつつ、何気なく健太君を盗み見てしまう。
すると、不意に顔を上げた顔と、目が合った。
少しの時間、見つめ合うと、目を逸らされてしまった。
でも、全く淋しいとは思わない。
短い少しの時間でも、十分幸せを感じるからだ。
手を振るくらいの余裕が私に有ればいいのだが、生憎そういう関係でもない。
それでも満足気にしていると、それを見ていた楓が、こちらに何か言いたげにしている。
「楓? どうしたの?」
「ううん。何でもないよー」
「えー。絶対、何かある。言ってよー」
「……華世は、いつ蜂矢くんに切り出すつもりなの?」
「切り出す……?」
私が理解出来ず、首を傾げる。
「何とぼけてんのよ。この前、私の目の前で間の抜けた告白してたでしょ。『せめて幼馴染みとして』って。あれじゃ、伝わらないよ」
「そんなこと言われたって、健太くんには今更、無理って即答されちゃってるし……」
「だから、それは二人の間で解釈が間違っちゃってるだけだと思うよ」
解釈違い。
「無理」という言葉に、どんな他の意味合いがあっただろうか。
考えてみるも、浮かばなくて眉間に皺が寄る。
そこで楓が私に、ある提案を投げ掛けた。
「それこそ、今こそ手紙! 今までは華世が他の子の手紙を代行として渡しに行ってたから、問題だったけど。華世本人が手紙をしたためて、華世本人が惚れている人、本人に直接、渡す! これってベストな流れじゃない?」
「うん……。本人が、っていうのが大事なんだよね」
「その通り。そこさえ間違えなければ、何も問題無いのよ」
――お母さんもお父さんから貰ったものだから、あんなノートの切れ端に電話番号を書きなぐったのものを、手紙と呼んで、十数年も大事に保管してあったんだ。
それは、大切な思い出になっていくんだからこそ。
会話の中で、お母さんが見せてくれた紙切れを思い出す。
――なんで、お父さんは手紙を、その場で直ぐに渡せたんだろう。