記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
彼は棚の上に飾ってあるウェディング写真に視線を移す。
写真の中の私は幸せそうに笑っている。

「必死だったよ。桐乃がどうやったら笑ってくれるか。もう一度前を向いて、俺と一緒に歩いてくれるかって。すごい覚悟で桐乃がニューヨークに来てくれたこと、知ってたからさ。余計に俺、必死だった。」
「・・・」
知らない時間の私。

私も紫苑と同じように、写真を見ながら話を聞く。

「今の桐乃、その時の顔してる。」
「え?」
「もう一度前を向いて、俺と歩き始めてくれた時の顔。心から笑ってくれてる。」
紫苑はそう言って私の方に視線を移す。
「すごく大切な時間とか瞬間って、たくさんあると思うんだ。」
「大切な瞬間?」
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