記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
いつの間にか私はまた寝てしまっていたらしい。
目が覚めると、私を心配そうにのぞき込む私の夫だという、紫苑の姿。

白衣から着替えている彼は、さっき見た医師の顔と違っている。

「あまり動揺すると体に障るから、薬を使って体を強制的に休めているような状態なんだ。」
「・・・」
目が覚めた私に、彼は改めて状況を説明してくれた。

地下鉄の階段から落ちてしまった私。
お腹はかばったものの、頭を強くうってしまった衝撃で脳内でわずかに出血した後があったらしい。
もう出血は止まり、自然と体に吸収されるだろうと診断されたけれど、あと数日は入院をして経過観察と安静にしないとならないらしい。

「お腹の赤ちゃんは今妊娠16週なんだ。桐乃はまだつわりがあって、思うように食事がとれなかったから、階段から落ちた時もおそらく貧血状態だったと思う。」
紫苑はベッドの横に置かれた椅子に座りながら、まっすぐ私を見て話しをしてくれている。
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