記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
「すまない」
急に紫苑が眉間にしわを寄せて、切なく顔をゆがめる。
「俺がそばについていれば・・桐乃の体調が悪かったのに・・・あの日俺はオペがあってそばにいなかったんだ。」
「・・・違う。」
心の奥がずきずきと痛むのは彼のこんな切ない表情を見たからだ。

「記憶のない私が何を言っても説得力ないけど・・・あなたのせいじゃない。」
断言する私に彼は切ない表情のままふっと笑った。

「俺が怖い?」
私から少し距離をとっているのは、記憶がない私への彼の配慮なのだろう。
「・・・わからない・・・でも」
「でも?」
「わからないけど・・・あなたがつらそうな顔をしてると胸が苦しい。」
言葉の最後に、自分の声が震えていることに気づいた。
私が自分の胸に手をあててギュッと握ると、『ガタンッ』と椅子が倒れる音がして、気づけば再び紫苑に抱きしめられていた。
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