記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
「妊娠が分かった時、私はどうだった?」
「桐乃は戸惑ってた。初めての妊娠だし、すぐにつわりも始まって体も辛そうだった。それにご両親が亡くなってから気持ちがまだ立ち直ってなかったから。余計にかな。」
「・・・」
「どうした?」
急に黙る私にちらりと視線を向ける紫苑。

「私・・・この子の存在に戸惑ってばかりで、はじめての時も、そのあとも・・・ひどいことしてるなって・・・。」
はじめから命を歓迎して、その芽生えに喜んでくれていた紫苑。
彼の言葉に嘘偽りはないと確信できる。

でも私は、はじめて妊娠に気づいたときも。事故のあと、記憶のないまま妊娠に気づいた時も、正直命に戸惑うしかできていない。

「でも、桐乃言ってたんだ。」
「え?」
うつむいていた私が顔をあげると、少し懐かしそうな目で前を見ながら紫苑が私の手をそっと握ってくれた。
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