記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
紫苑はニューヨークの街中をゆっくりと車でまわってくれる。
見たことの無い景色に私はくぎ付けになりながら、隣で運転してくれている紫苑の横顔に時々見とれてしまった。

「お腹、すいた?」
「うん」
「よし、じゃあ行こうか。」
紫苑が予約してくれている場所へ向かう時、地下鉄の入り口を通った。

私が事故に遭った場所とは違うと知りながらも、何となく嫌な気がして思わず視線をそらす。

「ごめん。ここは通らないと行けなくて。」
「大丈夫。」
地下鉄の乗り場は多い。
紫苑は私に気遣って通らないように気をつかってくれていたことにやっと気づいた。
紫苑は私の手をそっと握ってくれる。
私はその手を握り返しながら、嫌な気持ちが一気に温かな気持ちに変わる瞬間を感じていた。
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