記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される

「桐乃？」
気付けばあたりは暗くなっていて、目の前にスーツ姿の紫苑がいた。

「どうした？何があった？」
まだ震えている私の体をさすりながら、紫苑は私の体調を確認しはじめる。

「思いだしたの・・・」
「え？」
私の脈をはかっていた紫苑が動きをとめる。

「出会った日のこと、一緒に過ごした時のこと。空港で別れた時のこと。両親が亡くなった時のこと。もう一度ニューヨークに来た日の事・・・妊娠が分かった日のこと。全部、全部。」
紫苑は一瞬、動きをとめて目を丸くして私をみる。
「思いだしたの」
もう一度私が口にした瞬間、私のことを勢いよく抱きしめる紫苑。

いつだって冷静な彼が、衝動的に私を抱きしめる。
それだけで私の瞳からは涙が止まらなくなる。