記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
『頭痛がするそうです。階段から落下した時の影響でしょうか。記憶もここ半年の記憶がない状態です。詳しくは彼女に刺激を与えないためにと黙っていますが、おそらく一時期的なものだと思いますが確証が持てません。』
いくつかの単語が分かっても、何を話しているか私には全く分からない。

『今は体調を考えて彼女を刺激しないほうがいい。妊娠しているんだろう。あまり刺激を与えてしまうと、精神的な体調を崩して流産なんてことも考えられるぞ。』
『わかっています。でも・・・』
脳外科の医師に対する紫苑の表情が一瞬かげる。
そして隣に居る私を見て、優しく、でも力はなく微笑む。

『愛する人が自分を忘れてしまうことほど、悲しくつらいものはないと痛感しています。』
紫苑の言葉が分からないまま、私は紫苑の視線に、瞳をそらせない。

『もしも記憶が戻らなかったら?』
『何があっても離れない。私は彼女の記憶が戻っても戻らなくてもいい。生きて、笑ってくれれば。生きてさえいてくれれば、もう一度出会って、恋をして、結ばれる。そうなれるように努力するだけだ。自分の想いを伝える。努力を。』
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