記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
「桐乃?」
医師と話をしていた紫苑が私の方を見て、手を伸ばす。
思わず身構える私に、紫苑は私に触れる直前で手をとめた。

「ごめん・・・いやだよな・・・」
悲しそうな顔。

どうしてだろう。
この人の悲しそうな顔やつらそうな表情をみるたびに私の心がまるで、私のものじゃないようにずきずきと痛む。

「涙・・・拭いたかったんだ。」
紫苑はそう言って立ち上があり、近くにあったティッシュを手に取り、私に渡してくれた。
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
涙が流れていることにも気づかなかった私。

「・・・っ・・・」
再び頭が痛んで、私は思わず受け取ったティッシュを落としてしまう。
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