一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 彼がくれたブーケは私の手の中で甘い香りを放ち、夢のようなひとときの名残を残す。
 そのブーケの中にある白のトルコキキョウの花言葉は『思いやり』。
 それを彼は知っていたかどうかはわからないけど、鉛みたいな重い気持ちが消えた。
 明るい日差しに気づき、窓の外に目を向けると、さっきまで降っていた雨が止んでいた。
 灰色の雲の断片が青空に押しやられ、ロビーの窓から日差しが差し込み、大理石の床を明るく照らす。

「いい香り。ブーケの中になにかある。ハンカチ?」

 さっき女の子にハンカチをあげてしまったから、自分のハンカチを持っていない。
 ホテル内のショップで買ったのか、真新しいハンカチが、ブーケに埋もれている。

「もしかして、泣きそうになってたの見られてた……? この色のワンピース、目立つし……」

 恥ずかしいと思う反面、私のことを誰か気にかけていてくれたことが嬉しかった。
『ネモフィラ』のワンピースを着てよかった。
 このワンピースを着ていたから、きっと彼は、私に声をかけてくれた。
 伝わってきたという彼の言葉を頭の中で繰り返し、ブーケとハンカチを眺めると、自然に笑みがこぼれてくる。
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